パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

その予防接種、本当に必要ですか?〜肺炎球菌編〜

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どうも、あんきろさんです。

前回のHibワクチン(「その予防接種、本当に必要ですか?〜Hib編〜」)に続いて、個別の予防接種記事その4は肺炎球菌についてです。

予防接種の最初の記事(「その予防接種、本当に必要ですか?」)でも肺炎球菌ワクチンの効果についてはある程度触れましたし、効果自体は前回書いたHibワクチンと似ているのですが、ちょっとずつ違うところもあるので、その辺りを中心に書いていきます。

これも毎回書いていますが、私はワクチンは必要だと思っておりますので、タイトルを見て「ここにワクチン否定派がいた!」と喜んでやってこられた方は空振りです。期待に添えずに申し訳ありませんでした。でも読んでいってもらえると嬉しいです。

 

目次です。

はじめに

肺炎球菌ワクチンは欧米では2000年に実用化されその有効性が多数報告されていたにも関わらず、日本では長らく使用できずにHibと並んで日本におけるワクチンギャップの象徴でした。
そんな肺炎球菌ワクチンも2010年に任意接種、2013年に定期接種が開始され、Hibワクチンと共に日本の小児科診療を大きく変えたと言っても過言ではありません。
そんな肺炎球菌ワクチンについて詳しく見ていきましょう。

肺炎球菌って?

肺炎球菌はHibを含むインフルエンザ菌と並んで乳幼児の肺炎の原因として多くを占める細菌です。
その名の通り肺炎の原因となることが多いのですが、Hibと同様に髄膜炎を起こすことがあり、肺炎球菌による髄膜炎も死亡率が数%、なんらかの後遺症を残す可能性が10-20%程度と非常に重篤な疾患です。
肺炎球菌は他にも中耳炎の原因としても多く見られます。

ちなみに、肺炎球菌は成人の肺炎の原因としても多くを占めており、特に高齢者で問題になることが多く、小児用の肺炎球菌ワクチンとは別に、成人用の肺炎球菌ワクチンもあります。たまにテレビでCMしているやつです。

肺炎球菌はHibと同じように表面に莢膜というゲル状の膜を持っており、この莢膜があることによって特に乳幼児では免疫細胞に排除されにくくなっているので重症感染症を引き起こします。
Hibを含むインフルエンザ菌と同じように、この莢膜の構造によって幾つかの型に分けられます。
前回の記事に書いたようにインフルエンザ菌ではa〜f型と無莢膜型の7種類(Hibはb型です)ですが、肺炎球菌はなんと現時点で90種類以上報告されています。これは徐々に増えていっているのでもうすぐ100種類を超えそうです。

肺炎球菌は、乳幼児においてのどや鼻に保菌(肺炎や髄膜炎などの感染症を起こさず悪さはしないけど体の中にはいる状態)している確率も高く、生後10カ月まで約50%、3歳までに約80%が少なくとも1度は肺炎球菌を保菌していたという報告があります。
この保菌の割合は、集団保育を早くから開始している子ほど高く、またきょうだいがいる子の方が高いという結果が報告されており、肺炎球菌は子どもどうしで移しあっているという状況が見てとれます。

肺炎球菌のワクチンって?

肺炎球菌のワクチンは上で書いた莢膜の構成物質に対する免疫を誘導するものです。
ただ、この莢膜については上に書いたように90種類を超えるタイプが報告されており、それぞれが少しずつ違います。
まとめて全部を対象にしたワクチンを作れればいいのですがなかなか難しく、現在使用されている肺炎球菌ワクチンはこの莢膜のタイプのうち、重症の感染を起こす主要な原因の13種類を対象とした13価のワクチンです(2010年に肺炎球菌の予防接種が開始された時は7種類を対象にした7価ワクチンでしたが2013年から13価ワクチンに切り替わっています)。
よくある種類を対象にしてはいますが、すべての肺炎球菌を対象にした予防接種ではないことにはちょっと注意が必要です。

肺炎球菌のワクチンは不活化ワクチンなので1週間開けて他の予防接種ができ、推奨されている接種スケジュールとしては、生後2ヶ月以降に1回目の接種を開始し、それ以降は4週以上開けて初回接種として3回を接種し、初回接種から60日以上開けて1歳を過ぎて追加接種となります。

肺炎球菌のワクチンについては、オランダで初回接種のスケジュールによる免疫原性(免疫を誘導する能力)の強さの違いを調べた研究があって、初回接種3回(生後2・3・4ヶ月もしくは生後2・4・6ヶ月)と初回接種2回(生後2・4ヶ月もしくは生後3・5ヶ月)の4つのグループを比べています。
結果としては、初回接種後の免疫原性については、生後2・4・6ヶ月のグループが最も強く(=最も効果が高い)、3・5ヶ月のグループ、2・3・4ヶ月のグループ、2・4ヶ月のグループの順で効果が高いという結果になりました。
日本では2ヶ月になって肺炎球菌やB型肝炎、(±ロタウイルス)のワクチンと同時接種で1回目の接種を行い、その後は4週間ごとに3回の接種をするのがよくあるパターンなので、多くの子どもは生後2・3・4ヶ月で接種を受けていることになります。つまりこの4つのグループのうちでは効果としては3番目です。
この結果を踏まえると、2ヶ月に接種を始めて8週間ずつ開けて接種していくのが最も効果的なので、日本で一般的に行われている方法よりそちらの方がよさそうに思えますが、あくまでこれは初回接種後の免疫原性について評価したもので、最終的にはどのグループも追加接種後の免疫原性については同レベルであったとのことです。
つまり、追加接種も含めるとどのグループも効果は同等ということです。
母親からの移行抗体は生後どんどん減っていって感染のリスクが上がっていくことを考えれば、できるだけ早く肺炎球菌に対する自前の免疫をある程度のレベルに持って行く方が重要だと思うので、個人的には今のスケジュールで良いと思っています。

初回接種だけでなく、しっかり追加接種を行うことで免疫としては十分なものになるので、追加接種を行うことは非常に重要です。1歳を過ぎたら速やかに追加接種を行いましょう。

また、上に書いたように肺炎球菌のワクチンは13価のものに2013年に移行していますが、それまでに肺炎球菌ワクチンを接種した子どもは7価のワクチンを接種されています。
13価のワクチンのほうがカバーする菌種が多く、下に詳しく書きますが、ワクチンの効果によってワクチンでカバーできていない菌種による感染が増えているため、7価のワクチンの接種を終了している子どもでも、13価のワクチンを追加で接種することが望ましいと考えられています。
7価のワクチンを接種後であれば、13価のワクチンを1回接種することで残りの6種類に対する十分な免疫を獲得できることが報告されています。
自費にはなってしまいますが、子ども時代だけでなく将来的(特におじいちゃんおばあちゃんになって)にも肺炎球菌の感染を起こす可能性はあり、対象となる方は追加接種を考えてみる価値はあると思います。
6歳未満で7価のワクチンで追加接種まで完了している人が対象になります。

ワクチンの効果は?

以前に「その予防接種、本当に必要ですか?」で触れましたが、ワクチンの効果には接種した人をワクチンによって病気から守る「直接効果」と、ワクチンを接種していない人をワクチンを接種した人によって守る「間接効果」というのがあります。
わかりやすくするためにこの2つに分けてみていきましょう。

直接効果

Hibワクチンと同様に肺炎球菌ワクチンの導入によって、Hibほど劇的ではありませんが肺炎球菌による髄膜炎の罹患率はかなり低下しました。
厚労省の研究班による報告では、肺炎球菌による髄膜炎は2010年に比べて2015年は70%になっているという報告があります。
Hibワクチンほど劇的でない理由は、インフルエンザ菌による髄膜炎の95%以上がHibによるものであるのに対し、肺炎球菌による髄膜炎は、もともとワクチンによってカバーされていないタイプによるものが一定数ある上に、ワクチンの効果が出てワクチンによってカバーされているタイプが減ると、カバーされていないタイプが増えてしまうという性質があるためです。
とはいえ、重篤な疾患である髄膜炎が70%減少するというのはかなり大きなインパクトです。
Hibワクチンの記事にも書きましたが、Hib・肺炎球菌ワクチンの導入前後で乳児の髄膜炎に対する印象はガラッと変わっています。

また、肺炎球菌ワクチンの主な目的は髄膜炎を含む侵襲性肺炎球菌感染症(血液や髄液などの本来無菌の部分での感染症)を予防することですが、肺炎や中耳炎など局所での肺炎球菌の感染症を予防する効果もあります。
これについてはHibのワクチンと異なるところで、前回の記事にも書きましたが、インフルエンザ菌による中耳炎や肺炎はb型以外のタイプが多いので、Hibワクチンはこういった感染症の予防効果はありません。
アメリカでの報告では、2歳未満の肺炎が7価の肺炎球菌ワクチン導入後に43%減少(その後13価のワクチン導入後にさらに27%減少)という報告があります。
中耳炎については、ウイルス性のものなども含めて他の原因によるものも多いので、中耳炎自体の罹患率の減少は肺炎球菌ワクチン導入後も10%弱程度という報告が多いです。イスラエルでは60%減ったという報告もありますが。
ただ、鼓膜切開を要したり反復性の感染を起こしたりする難治性の中耳炎は20-30%程度減少したという報告があり、一定の効果はあると考えられます。

間接効果

Hibワクチンの記事でも書きましたが、ワクチンの接種率が上がると、多くの子どもが直接効果によって守られることになるので、間接効果の意味は薄れてきます。
肺炎球菌ワクチンもその段階になっています。
ただ、肺炎球菌については上に書いたように成人の肺炎の原因としても多数を占めていて、特に高齢者での感染が問題となっているので、祖父母と同居しているような場合は子どもの保菌が減ることによっておじいちゃんおばあちゃんの感染が減るかもしれません。
とはいえ可能性があるだけで、ざっと調べた感じではそんな報告はなさそうでした。あれば教えて下さい。

ワクチンの副反応は?

肺炎球菌ワクチンの副反応としては、他のワクチンと大きくは変わりませんが、ワクチンの成分に対する重症のアレルギーが数例報告されています。
頻度としてはごくごくまれなので、接種するときに注意が必要なほどではないと思います。

肺炎球菌のワクチンの副反応として特記すべきなのは、同時期に接種する他のワクチンと比べて発熱の頻度が高いことです。
単独接種のデータですが、接種後7日以内に37.5℃以上の発熱が1回目32.9%、2回目33.1%、3回目40.3%、4回目50.7%の頻度で見られています。
回を追うごとに頻度が上昇しており、追加接種時には半数で発熱が見られています。
予防接種の副反応による発熱は数日以内に解熱するので大きな問題はないのですが、追加接種時には1歳を過ぎていることから熱性けいれんを起こしたことがある子どももある程度いると思われ、そういった子どもにはけいれん時の対応も含めて、前もって少し対応を考えておいたほうが良いと思われます。
また、予防接種後の発熱に対して解熱剤を使うと予防接種の効果が低下するという報告がありますが、海外の報告で高熱時に解熱剤を使用しても免疫には大きな影響を与えないという報告もあり、熱があっても元気であれば様子を見ていればいいと思いますが、高熱でしんどそうであれば解熱剤を使って上げることは許容されると思います。

最後に

書きたいことは大体Hibワクチンの「最後に」のところに書いたので、そちらを参照していただければと思います。

肺炎球菌ワクチンについては、副反応として発熱が多いことと、自費にはなってしまいますが、6歳未満で7価ワクチンで接種を完了している人は13価ワクチンの追加接種が効果的であるということが特記すべきところだと思います。

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