パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

小児科で処置するときは親子分離すべき?小児科医が考えてみました

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どうもあんきろさんです。

前回の嘔吐下痢の記事(「嘔吐下痢について小児科医が語ってみるよ」)で少し点滴について触れましたが、今回は、点滴などの処置を子どもに対して行うときに、親御さんに付き添ってもらう方がよいかのかどうかということについて考えてみたいと思います。

 

はじめに

これを読んでいるお父さんお母さんの中で、自分の子どもが採血や点滴などの処置を受けたことがある方もたくさんいらっしゃると思いますが、処置の際は付き添われたでしょうか?
みんな大好きyahoo知恵袋などを見ていると、「処置の際に外で待っているように言われたけどなんで?」みたいな質問が結構あります。
これについては、医療者側の意見も結構分かれるところだと思うので、いろいろな意見をみながらどうするのがよいか考えてみます。

現状はどうなの?

現状と言いながら少し昔の調査で恐縮ですが、2005年の調査で小児の処置の際に親の付き添いがある病院は3.7%、「状況による」というのが31%、付き添いがないのが65.3%という報告があります。10年以上経過しているので状況は変わっているかもしれませんが、僕がいろいろな病院でお手伝いをしている感じとしては、この割合はあまり変わっていない気がします。
ちなみに僕が研修をした病院は、基本的に採血のときは親御さんに付き添ってもらっていたので、それが普通だと思っていたのですが、その後に働いた病院はほとんどが付き添いなしで処置しています。

付き添いのメリット・デメリットは?

医療者、親、子ども、それぞれの立場からメリットとデメリットを見てみましょう。

医療者からみた付き添いのメリット・デメリット

メリット・・・親が付き添うことで子どもが落ち着くのであれば、処置の成功率が上がる

子どもの採血、点滴は難しいと言われますが、その難しさの大部分は子どもがおとなしく処置されてくれないということが原因です。確かに子どもの血管は細かったり小さかったりしますが、それについては慣れればあまり大きな問題ではありません(たぶん)。
ということで、親御さんが付き添ってくれて、それで子どもが落ち着いて処置を受けてくれるのであれば処置の成功率は上がります。
ただ僕の経験としては、親がいるからといって落ち着いて処置させてくれる子どもはあんまりいません。そりゃそうですよね、針を刺されるわけですから。
とはいえ、親御さんがいないともっと泣き叫んで暴れることは容易に予想がつくので、子どもが落ち着くという意味では一定の効果はあると思います。

デメリット・・・親の目が気になって集中できなかったり緊張したりすると処置の成功率が下がる

容易に予想がつきますが、親の付き添いがなかなか増えない原因はたぶんこれです。
自分の経験から考えても、特にピヨピヨしていた研修医の頃は、横でお母さんとかお父さんが「もちろん一発でうまくいくんでしょ」みたいな目で見ている中で処置をするのはかなりのプレッシャーでした。
落ち着いてやればうまく行くことも、そういう状況では失敗してしまうということも多々あります。
お母さんの前で1歳くらいの子の点滴を何回か失敗して、「もう見てられない、やめてあげて」と泣かれたのは今でも鮮明に覚えています。
他にも、非常に怖い外見のお父さんに「もっとうまい医者はおらんのか!!!」みたいな感じで怒鳴られたこともありますし、親がいなければ感じないプレッシャーや緊張感は間違いなくあります。
とはいえ、経験を積んで処置がうまくなると、親の存在は別に気にならなくなります。
自分は点滴が(ある程度)上手だという自信があれば、その雰囲気が付き添いの親御さんにも伝わりますし、それだけ不必要なプレッシャーを受けることも減りますしね。
いずれにせよ、「親の目が気になって集中できない」などというのは下手くその言い訳なので、そんなことが理由で付き添いを拒否する理由にはならないと思います。
そう思ううちはひたすら練習あるのみです。その過程で怖いおじさんに凄まれたりすることもありますが、それもまた経験です。
ただ、どうしてもめちゃくちゃ点滴が難しいお子さんというのはいるので、そういう場合は親御さんには出てもらったほうがうまくいくこともあるので、ケースバイケースではあるのですが。

親からみた付き添いのメリット・デメリット

メリット・・・子どもが辛いときに側にいてあげられる

親としては、やはり子どもが辛い処置を受けているときは側にいたいと思うのが自然ではないでしょうか。
自分が親の立場であれば、自分の見えないところに子どもが連れて行かれて、何十分も泣き叫びながら処置を受けているのは嫌ですね。
まぁ、この思いが医療者にはプレッシャーとして感じられるわけですが。
ただ、上にも書いたようにそれを理由に付き添いを拒否するのは下手くその言い訳だと個人的には思います。

デメリット・・・子どもが辛いシーンを目の前でみなければいけない

子どもが辛いときに側にいたいと思う一方で、子どもが辛い目に合うのは見たくないというのも親の心理だと思います。
上にも書きましたが、僕も「もう見ていられない」と泣かれたこともありますし、そういった場合は無理に付き添ってもらう必要はないと思います。

子どもからみた付き添いのメリット・デメリット

メリット・・・自分が辛いときに親に側にいてもらえる

親が子どもが辛いときに側にいてほしいと思うように、やっぱり子どもも自分が辛いときに親に側にいてほしいと思うのではないかと思います。
ここまで医療者・親の立場を見てきましたが、子どもが処置のときに側にいてほしいと思うのであれば、それが全てに優先して尊重されるべきだと思います。
意思表示できる子は確認できるのでいいのですが、意思表示できない小さい子はどうなんでしょうか?
推測するしかありませんが、やはり一人で知らない人ばかりに囲まれて痛いことをされるのは嫌なんじゃないかと思います。実際どうなんでしょう?
ある程度大きくなって、「オカンなんかついていらん!」というような子は一人で頑張ってもらいましょう。

デメリット・・・本来助けてくれるはずの親が側にいるのに助けてくれないとトラウマになる

これはよく医療者の側から親を離す理由として提示される理屈です。
一見すると確かにそうかもと思いますが、僕に言わせていただけば、これは「親の目が気になって集中できなかったり緊張したりすると処置の成功率が下がる」という医療者から見たデメリットを隠すための言い訳に過ぎないと思います。
その証拠に、同じように痛みを伴う処置である予防接種をする際に、わざわざ親御さんに別室に出て行ってもらうところはほとんどないと思います。少なくとも僕は知りません。
「予防接種は一瞬で終わるから」と言う人がいるかもしれませんが、それこそ上手な人の点滴は一瞬で終わります。予防接種の方が皮下に薬液を注入する分、痛いこともザラにあります。BCGなんて見てるだけで痛そうです。
それなのに予防接種は良くて採血・点滴はダメなんておかしな話です。
予防接種と採血・点滴の違いはその難易度です。いくら親が見ている状況だったとしても予防接種を失敗する医者は(おそらく)いないと思うので、親子を分離する理由がないと考えるとスッキリします。

そもそも、普段の生活においても必要と考えれば子どもが嫌がることもしなければいけないのが親なので、この理屈は僕には全く納得できません。
この理論を主張する人は、泣き叫んで嫌がる子どもに対して歯磨きさせたり風呂に入れたりしたことがないんでしょうか?
延々と楽しくボールプールで遊んでいるところを、心を鬼にしてもう帰らなければいけないからと泣き叫ぶ子どもを連れて帰ったことがないのでしょうか?
子どものことを慮っている感じを出している分、「お母さんいると集中できないんで出て行ってもらえますか?」と正直に言うよりタチが悪いと個人的には思っています。

とはいえ、実際に子どもの立場だったらどうなのかは大人の僕には想像するしかありません。
なんとかして評価する方法はないもんですかね?子どもが実際にどう思っているかぜひ知りたいものです。
実際に、子どもが「裏切られた」と思っているのであれば、予防接種は親子分離が必要ですしね。

付き添いがない方が良い処置

とはいえ、親御さんに付き添ってもらわない方がよい処置もあります。
上にも書きましたが、すごく難易度の高い採血・点滴などもそうですし、付き添いがない方がいい一番の処置は清潔操作が求められる処置です。
清潔操作が求められる処置は髄液検査や導尿などですが、この時は清潔にしないと感染の原因になってしまったり、せっかく採取した検体がダメになってしまったりするので、医療者だけで行うことにしています。

個人的な意見をまとめると

一番に優先されるべきは実際に処置を受ける子どもの意見です。
2歳くらいになるとある程度の意思表示はできると思いますし、そういった場合は子どもの意見を聞いて側にいて欲しいかを確認すればいいと思っています。
子どもが側にいて欲しいと思うのであれば、親や医療者の意見は関係なく付き添ってもらえればいいと思いますし、付き添って欲しくないなら一人で頑張ってもらいましょう。

子どもに特に希望がなかったり、幼くて意思表示できない場合は次に優先されるべきはやはり親御さんの意見だと思います。
親御さんが付き添いたいというのに、明確な理由(難しい処置や清潔操作など)なしにそれを拒否するのは、特に今の時代の状況からは理解が得られにくいことだと思います。
何度も書きましたが、「親の目があると集中できない」というのは医療者の甘えですし、一人のプロフェッショナルとして許される言葉ではないでしょう。
少なくとも、僕はそんなことを言う小児科医に子どもを預けたいとは思いません。

なんでもかんでもオープンにしろというわけではないですが、納得できる理由なく処置時に親子が分離されることが多い現状はやっぱりおかしいんじゃなかいかなと思います。

とはいえ、僕もお手伝いにいった病院で処置の際に「親御さんに付いてもらっていいですよ」と言っても、「うちでは出て行ってもらってるんで」と言われると「そうなんですね」としか言いようがなく、実際は付き添いなしで処置をしていることが殆どです。
こういった状況を変えていくためには、医療者全体の意識が変わっていくことが必要だと思うので、なかなか大変だとは思うのですが。

皆さんは処置の付き添いについてどう思われますか???