パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

その予防接種、本当に必要なんです。

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なんと、昨日の「その予防接種、本当に必要ですか?」の記事がはてブの「世の中」部門でホッテントリに入ってしまいました。

アクセス数も前日の10倍くらいになって、もう、びっくりするやら嬉しいやら怖いやらで昨日の夜からそわそわしています。

記事中で「いろんな意味でみんな予防接種のことを大好きすぎて、予想外のところからツッコミが入りそうな気もしますが、まぁこんな末端のブログは誰も見ていないだろうということで気にせずに書いていきます。」と書きましたが、こんな末端のブログまで見にくるなんて、予想以上にみんな予防接種が大好きすぎです。

これを書いている時点で27人もの人にブックマークをいただいて、びっくりするやら嬉しいやら怖いやら(以下略)

でもこうして書いた内容に反響がもらえると、やはり素直に嬉しいですね。

さて、ブックマークいただいた人の中で何人かはコメントをしてくださっているのですが、その中の一つに、予防接種の難しさというのを端的に表したものがあったので、それに触れるとともに、引き続きもう少しだけ予防接種について書いていきたいと思います。おつきあいいただければ幸いです。

 

 

はじめに

まずはいただいたコメントを見てましょう。

ポリオなんかは無くてもいいような。今は改善されたのでまだいいけど、前は生ワクチンで自然発生の患者はゼロなのに予防接種のせいで数は少ないながら患者を生み出していた。http://www.asahi.com/articles/ASK2H6JRNK2HPTJB00R.html

これは非常に厳しいコメントです。実際にこのように思っておられる方も結構いるんじゃないでしょうか?

「前は生ワクチンで自然発生はゼロなのに、予防接種のせいで少ないながら患者を生み出していた」というのは否定しようのない事実です。

コメントに添えられた朝日新聞の記事にあるように、生ワクチンの時代は予防接種が原因でポリオを発症してしまう子どもがいました。

しかし、そのことから「ポリオなんて無くてもいいような」といえるでしょうか?

それはノーです。

どうしてノーと言えるのか、まずはポリオと予防接種の関係を見ていきましょう。

 

ポリオって

ポリオとは、エンテロウイルスというお腹の風邪(夏風邪)のウイルスの一種であるポリオウイルスが、脳や脊髄などに感染して起きる四肢の麻痺症状とする病気のことです。ポリオウイルスはお腹の風邪のウイルスなので、口から体内に入って、喉や腸で増えます。

ポリオは昭和35年に大流行があり、この時は全国で6000人を超える患者さんが報告されています。まだこの時代は日本ではワクチンが製品として認可されておらず、翌年に海外から生ワクチンが緊急輸入され、子どもにワクチンの一斉投与が行われました。その後は患者数は激減し、3年後には患者数はなんと100人以下になっています。その後、昭和39年から国産ワクチンによる接種が開始されました。

その後も患者数は減り続け、自然発生のポリオ患者が最後に報告されたのは昭和55年で、国内では2000年にポリオウイルスの根絶が宣言されています。すなわち、予防接種によって国内からポリオのウイルスはいなくなったということです。

 

ポリオワクチンについて

ポリオに対する有効な治療法はなく、ポリオによる麻痺を防ぐためには、予防接種によってウイルスの感染を予防する事が最も重要です。

ポリオワクチンには、口から飲む生ワクチンと注射によって接種する不活化ワクチンがあります。

生ワクチンはポリオウイルスに対する血液中の抗体だけでなく、口から飲むので腸管で体外に分泌される抗体も上昇します。血液中の抗体はすでに感染を起こして血液に入ってきたウイルスと戦いますが、腸管で体外に分泌される抗体は、お腹で体に入ってくる前のウイルスと戦うので、感染予防効果としては高いものが期待できます。

一方で、不活化ワクチンはウイルスに対する血液中の抗体は上昇しますが、腸管での体外に分泌される抗体は上昇しません。このため、口から入ってお腹で増えるポリオウイルスに対して、お腹での免疫は不十分となりやすいことが問題です。

その一方で、生ワクチンには上で触れたワクチン株によるポリオ様の麻痺が発生する可能性が稀(日本での調査では約440万接種に1人)ながらあります。IPVについては不活化ワクチンであるため麻痺症状が現れることはありません。

日本では2012年に生ワクチンから不活化ワクチンに切り替わりましたが、麻痺の副反応のことを考えると、最初から危険性のない不活化ワクチンではダメなのかという疑問が出ると思います。

これについては、実際に比較した試験がない(というかできない)ので確信を持って言えることではないのですが、上で書いたように腸管局所での免疫獲得がないことから、不活化ワクチンが生ワクチンと同様の予防効果を期待できるのは、自然界でポリオウイルスが根絶され、長年流行のない地域のみと考えられています。

WHOでの行程表では、自然界のポリオウイルスを減少させるために、まず第1段階として経口の生ワクチンを投与し、ポリオの発症がなくなった後には第2段階として不活化ワクチン・生ワクチンの混合方式として、その地域でポリオウイルスを根絶した後には第3段階として不活化ワクチン単独投与とする方針を示しています。

つまり、まだその地域にウイルスがいる段階では生ワクチンを投与する方が予防効果が高いということです。

それなら、日本では2000年にポリオウイルスは根絶されたわけだから、もっと早くに不活化ワクチンに切り替えても良かったんじゃないの?と言われそうですが、それはまったくその通りだと思います。ただ、それは予防接種の必要性とはまた別の話になっちゃいますけど。

ちなみに、WHOの行程表では、最終的に世界中でポリオウイルス根絶が確認されて初めて第4段階としてポリオワクチンの中止となっていますが、世界はまだこの段階には至っていません。

ということで、最初のコメントでポリオなんかは無くてもいいようなというのは間違いです。この段階で辛抱強く続けることによって、ようやく初めてワクチンの接種を中止できるのです。

 

最後に

予防接種の難しいところは、その効果が十分に現れると病気が減るので、逆説的に効果が見えにくくなり副反応を含めた負の面がクローズアップされやすいということです。

冒頭のコメントで出ていたようなポリオワクチンによる麻痺の患者さんが出ているのは確かです。予防接種を打つ側にとっては440万分の1でも、その人や家族にとってみれば1/1です。そのことをしっかり心に留めて予防接種をしなければいけないと思っています。

しかし、今のポリオがない日本というのは、50年以上前からポリオに対する予防接種を行ってきた結果です。現在の我々がポリオに脅かされること無く生活できているのは、予防接種を打った全ての人のおかげです。その中には不幸にも副反応が出てしまった人も含まれています。ワクチンを打たないということは、その人たちのやってきたことを踏みにじるような行為であり、これからの世代にポリオの危険性を再度負わせようとする行為です。それは、僕の感覚では許し難いことだと思っています。

小児科医として、今の状況のありがたさを実感しつつ、さらにいい時代を後に残せるようにと、この文章を書きました。ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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