パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

風邪にその抗生剤、本当に必要ですか?

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どうも、あんきろさんです。

インフルエンザの「本当に必要ですか?」シリーズ(「そのインフルエンザ検査、本当に必要ですか?」「その抗インフルエンザ薬、本当に必要ですか?」)がそれなりに読んでもらっているようなので、調子に乗って「本当に必要ですか?」シリーズの続編です。

今回はみんな大好き抗生剤について見ていきます。

 

 

 

はじめに

救急外来で風邪で熱を出している子に対症療法薬(解熱剤や去痰薬・鎮咳剤などの症状を緩和する薬)だけを出して「様子を見てね」と言うと、何人に一人かの保護者は「抗生剤はもらえないんですか?」と言われます。

おそらく、普段のかかりつけの先生がよく抗生剤を出される先生なのだと思いますが、まず初めに言っておくと、子どもの風邪による発熱のほとんどには抗生剤は不要で、本当に抗生剤が必要な子どもの風邪はごくわずか(感覚的には5-10%程度)です。

そもそも抗生剤って?

感染症の原因は大きく分けると、ウイルスと細菌と真菌の3つになります。

このうち真菌というのはカビのことで、なかなかオムツかぶれが治らなくて調べて見たら実はカンジダだった、みたいな時の感染が真菌感染です。ただ、外来で見る子どもの発熱で問題になることは基本的にありません。

小児科の外来をしていて問題になるのが残るウイルスと細菌です。

このうち細菌をやっつけるお薬が抗生剤になります。

ちなみに、抗生剤(抗生物質)というのは厳密に言うと、微生物が作る抗細菌作用をもつ化学物質のことで、人工的に合成した抗細菌作用を持つ化合物は抗生剤とは呼べません。こうした人工的に合成したものも含めて抗細菌作用を持つ薬を抗菌薬と呼びます。

ということで、ここで言うところの抗生剤というのは抗菌薬のことなのですが、抗菌薬というとなんとなく固い印象でとっつきにくいので、わかりやく抗生剤のままでいきます。

お名前原理主義者の方がいらっしゃいましたら、平にお謝り申し上げます。

さて、もう1つのウイルスをやっつけるお薬は抗ウイルス薬と言いますが、実は抗ウイルス薬の種類はあまり多くなく、小児科で使う抗ウイルス薬は、それこそ前の本当に必要ですかシリーズで触れた抗インフルエンザ薬と、水ぼうそうやヘルペスに効く抗ヘルペス薬くらいです。

子どもの風邪による発熱の原因の大半は・・・

ずばりウイルスによるものです。

もちろん、最初はウイルスの感染でも、ウイルスと細菌はお互いに助け合いながら増えていくので、途中からウイルス感染に細菌感染が合併ということはありますが、最初から細菌が悪さをする子どもの風邪というのは、それこそ溶連菌の感染症(喉や扁桃腺の風邪)とマイコプラズマの感染症(気管支炎・肺炎)ぐらいしかありません。

じゃあ、なんで子どもの熱に抗生剤がたくさん出されるの?

この質問はむしろ僕が聞きたいくらいなのですが、いくつか理由が推測されます。

まず一つは、症状や身体所見からは細菌感染とウイルス感染を区別するのが難しいということです。

よく、濃いあおっぱなが出ていると細菌感染だとか言われますが、鼻水が漿液性(サラサラしたやつ)から膿性(どろどろ)したやつに変わっていくのは風邪の自然の経過で、それだけでは細菌性とウイルス性を区別することはできません。

熱についても、「熱の素朴な疑問に答えます」にも書きましたが、高いほうが重症感染症である可能性は高くなりますが、ウイルス性の高熱なんて山ほどあります。それこそインフルエンザなんて高熱が出ますけど、ウイルス性の風邪の最右翼です。

もう一つは、抗生剤を出すデメリット(その医者にとっての)があまりなく、抗生剤を出さないことのデメリット(その医者にとっての)が多いことです。

例えば、2日続く発熱の風邪があったとします。

何もしなくても2日後には熱が下がるわけですが、抗生剤を出されていないと、「抗生剤を出されていないから熱が下がらないんだ。前に抗生剤を出してもらった時はすぐに熱が下がったのに。この医者は抗生剤も出さないクソ医者だ」(いまどきこんな患者さんはいないかもしれませんが)とかなるわけです。

しかもタイミングが悪いことに、こういう場合は、2日目にやっぱり熱が下がらないからと受診して「前に抗生剤を飲んだ時はすぐに熱が下がった。今回は出されてないから下がらないんだ。絶対に抗生剤を出してくれ」とか言われて、仕方ないから抗生剤を出したらそのタイミングで熱が下がるわけですね。別に飲まなくても下がるわけですが。

こうなると、受診する方にも「やっぱり抗生剤は効く」という刷り込みが出来上がって、さらに強い抗生剤の輪廻にはまり込むことになるわけです。

一方で最初から抗生剤を出してもらった時は「抗生剤飲んでも熱が下がらないんだったら、もうできることもないし待つしかないか」となるわけです。それで2日目に熱が下がったら、「今回はちょっと効きが悪かったかもしれないけど、やっぱり抗生剤のおかげで熱が下がった」とかなるわけです。

いずれにせよ、初めから抗生剤を出しておいて医者にとって悪いことはありません。

言い方は悪いですが、特に開業医の先生にとっては医者も人気商売なので、医学的に正しいとしてもあまり悪く言われるようなことはしたくない、という方は結構多いのではないかと思います。

今のところ、「あそこは抗生剤も出してくれないクソ医者だ」という評判はたっても、「あそこは抗生剤をバンバン出してくるクソ医者だ」という評判がたつという話は聞いたことがありません。

 本当は抗生剤をあまり出さない先生の方がいい小児科医であることが多いんですけどね。

こういう、訴えられたり悪評を立てられたりしないように過剰な医療を行うことを、防衛医療と言ったりします。

別の話になっちゃいますが、逆に本当は必要なのにリスクが高いから検査とか処置をやらない、というのも防衛医療です。

抗生剤を飲むデメリットってないの?

上にはかっこ付きで「その医者にとっての」デメリットと書きましたが、処方されて飲む子どもや社会全体にとってのデメリットは残念なことにたくさんあります。

飲む方にとってのデメリットは、まずはアレルギーを含めた副作用です。

特に抗生剤はアレルギーを起こしやすいものが多いのでちょっと注意が必要です。

ただ、こういった副作用はどんな薬にもあるもので、抗生剤特有のものではありません。

抗生剤独自の副作用というのは、体の中の正常な細菌もやっつけてしまうことです。

一番有名なものは腸内細菌叢ですが、人間の体の中には、諸説ありますが数十〜千兆もの細菌が住んでいます。

その細菌たちは私たちの体の機能の調節に一役買ってくれているわけですが、抗生剤を使うことで、そういった正常の細菌叢もダメージを受けてしまいます。

抗生剤を飲むとお腹の調子が悪くなるのはこのためです。

それを防ぐために抗生剤に対する薬剤耐性が入った乳酸菌のお薬(ビ○フェルミンR®とか)を飲むわけですが、気休め程度にしかなりません。

まぁ、抗生剤を飲んでも、正常細菌叢はしばらく放っておけば元に戻るという報告もありますが、幼少期にたくさん抗生剤を飲んだ子どもの正常細菌叢はそうでない子に比べてバリエーションが少ない(細菌の種類が少ない)という報告もありますし、いらない抗生剤は飲まない方がベターです。

また、これは限られた抗生剤ですが、ピボキシル基というものが含まれた抗生剤は長期的に内服すると、カルニチンというビタミンのような栄養素が欠乏して、けいれんなどを起こすことがあります。

このピボキシル基が含まれた抗生剤は種類は少ないですが、セフジトレン(メ○アクト®)とかセフカペン(フ○モックス®)とかテビペネム(オラペネム®)とかよく処方される薬が含まれており、注意が必要です。

あとは、これは医者からみたデメリットですが、中途半端に抗生剤を使ってしまうと、本当に細菌感染だった場合に原因の菌が何だったかがわからなくなることがあります。

細菌感染のポイントは、どこの臓器でどの菌が悪さをしているかをはっきりさせることなのですが、中途半端に抗生剤を使ってしまうと、痰などから本来は検出できるはずの細菌が検出できなくなり、原因の菌がわからなくなることがあります。

原因の菌によって抗生剤の種類や治療期間が変わってくることがあるので、これも困ります。

あとは、社会全体でみるデメリットとしては、必要のない薬を処方されることで医療費がわずかではありますが増えますし、やはり耐性菌の出現も問題となります。

耐性菌については本当に深刻な問題で、どんどん新しい抗生剤を開発することは今後は難しく、今ある薬を大切に使っていく必要があります。 

じゃあ、本当に抗生剤が必要なのはどんな時

まず、風邪の最初から抗生剤が効くのは溶連菌とマイコプラズマくらいです。

ただ、この効くというのもイコール必要という訳ではなく、例えば溶連菌は2歳未満は症状が軽く済んで、合併症の急性糸球体腎炎を起こす可能性も低いから抗生剤は必要ないという意見もあります。

2歳未満でもかなり高熱の溶連菌感染はあるので僕は抗生剤を使いますが。

あとは、風邪が長引いてきて最初はウイルス感染だけだったのが、一緒に細菌の感染も合併してきた時は抗生剤が必要です。

これを2次感染と言いますが、この2次感染を起こしているかどうかの判断は非常に難しいので、経過と合わせてレントゲンや血液検査を併用して判断します。

あとは、風邪ではないですが、熱の他に症状のない乳児の発熱は尿路感染(おしっこの感染)や菌血症(血液の感染)が含まれており、ただの風邪に比べて抗生剤を必要とする割合が高いです。 

最後に

この前「その抗インフルエンザ薬、本当に必要ですか?」でみた抗インフルエンザ薬は、おそらく効果はあるけど費用対効果は十分ではないという結論でしたが、風邪による発熱に対する盲目的な抗生剤の使用は百害あって一利なしです。

それを実感している小児科医は多いと思うのですが、これまでそういう風にやってきたからという惰性で抗生剤を出し続けいている小児科医も多いと思います。

熱だからといってすぐに抗生剤を出しますねと言われたら(熱もないのに抗生剤を出す小児科医なんて言語道断ですが)、「風邪にその抗生剤、本当に必要ですか?」と言ってみたら、意外に「本当はいらないと思ってたんだよ」と言ってくれるかもしれません。

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