パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

そのインフルエンザ検査、本当に必要ですか?

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こんにちは、あんきろさんです。
以前に書いた熱の記事(「座薬vs飲み薬 〜仁義なき解熱剤戦争〜」「熱の素朴な疑問に答えます」がまずまずたくさんの人に読んでもらえているので、調子に乗って今度はインフルエンザ(の検査)について書いてみます。

 

今回はかなり長いので目次つきです。

 

救急外来でのよくある光景

冬場の夕方から夜にかけて、「保育園でインフルエンザが流行ってるので検査して来てと言われて・・・」という方が結構たくさん受診されます。「朝から熱が出て様子を見てたんだけど、やっぱり下がらないから受診しました」とかだとまだ検査のやり甲斐があるのですが、「さっき熱が出たばっかりだけど検査してきてと言われた」とか、ひどいのになると「熱は全然ないけど咳がひどいから検査してきてと言われた」とかもあります。ひどいのは受診する人ではなくて受診して来いという方ですよ、あくまで。
保育園や幼稚園、小学校にこどもさんが通っているお父さんお母さんは、同じような受診をしたことがあるんじゃないでしょうか。
うちのお兄ちゃんも同じようなことを何度か保育園から言われたことがあります。
あと、「家族みんながインフルエンザで、この子も熱が出たので受診しました」という人に「それはほぼ間違いなくインフルエンザだから検査の必要はないです。インフルエンザの薬出しとくね」と言うと「でも心配なので一応検査してもらっていいですか?」という方も結構たくさんおられます。
まぁ、インフルエンザの検査なんて、深く考えずに鼻に綿棒を入れてごにょごにょして結果を待つだけなので、大変なことは何一つないんですが、数が多いと業務を圧迫します。
特に、こっちでやれ喘息だ、あっちでやれ痙攣だ、とバタバタしている救急外来では、忙しく処置などをしている間にそんな患者さんが溜まっていき、あっという間に2-3時間待ちの出来上がりです。
忙しいので医者も看護師もイライラするわ、ただ検査するために受診しただけなのに長時間待たされて受診しているこどもも家族もイライラするわでいいことは1つもありません。

検査おいくら?

皆さんはインフルエンザの検査単独でいくらかかるかご存知でしょうか?
診療明細に載っている点数というやつです。
検査料と判断料を合わせて300点くらいなので、大体3000円くらいです。
大人ならこの3割負担なので1800円、まぁ初診料とか何とか料とかでプラスアルファで色々取られて自己負担で3000円くらいでしょうか。
こどもの場合は…、まぁこれは小児医療の光なのか闇なのかよくわかりませんが、自己負担全くなしというところも結構たくさんあります。
まぁ、その是非についてはあえてここでは触れません。単純な問題ではないので。
とはいえ、いくら自己負担が無料だからといって、もちろんタダなわけではありません。誰かがお金を払っているわけです。
それは自治体であり、保険者であり、国でありです。
そのお金の元をたどれば、皆さんが払った税金であり、保険料です。
今この瞬間も日本の至るところでインフルエンザ検査が行われていると思いますが、その検査料の3000円のうちごくわずかではあるものの幾らかを、これを書いている僕も読んでいるあなたも負担しているのです。

そもそも検査は何のためにするの?

さて、次に問題となってくるのが、そのインフルエンザの検査に3000円の価値があるのかどうかというところです。
そこで考えなければいけないのが、検査は何のためにするかということです。
とはいえ、答えは単純。診断をはっきりさせてその後の治療を含めた対応に活かすためです。
つまり、検査によって診断がはっきりしてその後の治療を含めた対応に活かせるなら3000円の価値はありますし、そうでないなら夏目漱石を3人ドブに捨てているようなものです。
嘘です、実際は経費を除いて病院の収入になって僕みたいな医者の給料になったりしてます。まぁ、そう考えるとドブに捨てているようなものかもしれませんが。
それはとりあえず置いといて、そういう観点からなら、インフルエンザの検査をするとインフルエンザかどうかはっきりするわけだから、検査をする意味はあるんじゃないのと思われそうですが、果たして本当にそうでしょうか?

検査はどれだけ正しいの?

この項目がこの記事で一番大事な部分です。その分ちょっと複雑ですが、がんばってついてきてくださいね。

検査の有用性を評価する指標として、感度と特異度というものがあります。
感度というのは、100人のインフルエンザの患者さんがいて、全員にそのインフルエンザの検査をしたとして、何人が陽性になるかという値です。
つまり、感度90%の検査であれば、100人のインフルエンザの患者さんのうち90人は陽性で正解になるけど、10人は本当はインフルエンザでも陰性になっちゃうよ、ということです。
一方もう一つの指標である特異度というのは、100人のインフルエンザではない患者さんがいて、全員にそのインフルエンザの検査をしたとして、何人が陰性になるかという値です。
つまり、特異度90%の検査であれば、100人のインフルエンザではない患者さんのうち90人は陰性になるけど、10人は本当はインフルエンザじゃないのに陽性になっちゃうよ、ということです。
この感度と特異度ですが、当たり前のことですが、両方とも100%になることはありませんし、どちらかを上げようと思えばもう片方は下がります。
そんなよくわからない値ではなくて、その検査が陽性(もしくは陰性)になった時に、実際の正解率がどれくらいかを知りたいんだ!と思われるかもしれません。
その値を陽性(陰性)的中率と言います。
感度・特異度・陽性(陰性)的中率を表にまとめるとこんな関係です。

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ただ、この陽性(陰性)的中率ですが、ちょっと複雑です。
どこが複雑かというと、その検査する集団でその病気(例えばインフルエンザ)がどれくらいの割合でいるか、ということによって変わってくるのです。
例として、発熱の患者30000人を連れてきて、10000人ずつ3グループに分けます。
グループ1は8月の沖縄から連れてきた発熱の患者10000人です。インフルエンザの人はまぁほとんどいないでしょう。有病率1%(つまり、この10000人の中にインフルエンザの人は100人だけ)とします。
グループ2は1月の東京から連れてきた発熱の患者10000人です。インフルエンザの人は結構いるでしょうね。有病率40%(つまり、この10000人の中にインフルエンザの人は4000人)とします。
グループ3は1月の東京から連れてきて、しかも家族の中にインフルエンザ患者が複数いる発熱の患者10000人です。インフルエンザの人だらけでしょう。有病率80%(つまり、この10000人の中にインフルエンザの人は8000人)とします。
2012年の論文でインフルエンザの検査の感度は62.3%、特異度は98.2%という報告があるので、これを使ってみましょう。感度についてはもうちょっと上手にやったら高くなりそうな気がするので、計算しやすさも考えておまけして70%で考えます。特異度も計算しやすくするため98%で計算します。

先ほどの表に実際に数字を当てはめて計算するとこのようになります。


グループ1

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8月の沖縄でインフルエンザの検査をしても、陽性になるのは3%弱。しかもそのうち本当にインフルエンザなのは26%だけです。
結局、検査が陽性になろうが陰性になろうがインフルエンザの可能性は低いという当たり前の結論に至るので、検査をする気には全くなりませんね。

 

グループ2

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1月の東京でインフルエンザの検査をすると、大体3割が陽性になって、陽性になった人はほぼ間違いなくインフルエンザと診断できます。
残りの7割の陰性の人も、約80%の確率でインフルエンザではないと言えます。
この確率をみると、インフルエンザの検査でまずまずはっきり白黒つく感じなので、検査してみようという気になりますね。

 

グループ3

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グループ2のうち、さらにインフルエンザの可能性が高い集団を抽出した場合は、5割強の人が陽性になって、その人は間違いなくインフルエンザなのですが、陰性になった4割強の人が問題で、このうち半分以上は実際はインフルエンザに罹患しているのに検査では陰性になってしまうということがわかります。
要はインフルエンザの可能性が高いグループに検査をして陰性であっても、むしろインフルエンザにかかっている可能性の方が高いということです。
検査してもインフルエンザの可能性が高いという結論は変わらないので、やはりこの集団にも検査をする意味はあまりありません。

 

実際に患者さんを診察するときは、その患者さんがどんな有病率の集団に属しているかはわからないので、背景や病歴、身体所見からその患者さんがどのくらいの確率でインフルエンザかどうかを推定してます。

その確率を検査前確率と言って、例えば40%と考えたら、仮想的にグループ 2に属していると考えて計算するわけです。
そうすると、この患者さんにインフルエンザの検査をした場合はだいたい30%の確率で陽性の結果が出て、その場合のこの患者さんが実際にインフルエンザに罹患している確率は95%くらい、逆に陰性だった場合は80%くらいの確率でインフルエンザにかかってないと言える、ということがわかって、これを検査後確率と言います。

このように、ある疾患を想定して診断のために検査を行うのであれば、検査する前にどれくらいの確率でその疾患であることが予想されて、検査をすることによってその結果がどう変化するか、ということを医者はわかって検査しているはずなので、その内容を説明できないといけません。そのはずです。(できない医者も結構いそうな気がしますが、ごにょごにょ
そういうのを外来で聞かれてとっさに答えられるかは、いい医者かどうかのテストになりそうですね。実際にやると嫌がられる可能性もあるので、実際にやられる場合は自己責任でお願いします。まぁ、こういうのを嫌がらないのが本当にいい医者なんだと思いますが。

 

ちなみに、この計算は感度を実際の報告より高めで計算しているので、感度を下げるともっと検査の正確性は落ちます。
さらに言うと、インフルエンザの検査は体内のウイルス量によって感度が大きく変わるので、発熱してすぐに検査すると感度はさらに低くなります。
冒頭の救急外来でのよくある光景での、発熱してすぐの検査の問題点はここにあります。
じゃあどのくらい待てばいいのかというのは難しいところですが、まぁ半日くらい待てばそれなりの感度は出るんじゃないかという気がします。

まとめると

上でみたように、インフルエンザの可能性が極めて高いや低い人に検査しても、検査前の想定と結論が変わらないことが多いので、あまり検査の意味がありません。
インフルエンザの検査が意味を持つのは、それなりにインフルエンザの可能性があって、もう一つ決め手が欲しいという時です。
まぁ、冬場の中途半端な発熱は大体これに当てはまるので、基本は検査したらいいと思ってはいるんですけどね。
ただ、冬場の救急外来が人で溢れかえっているのは事実ですし、その中にはインフルエンザの検査が必要ないのに検査のために受診している人がそれなりにいるのも事実です。
それによって医療費を含めて医療資源(もちろん人的資源も)が消費(浪費とはいいませんよ)されているのもこれまた事実です。
そりゃあ某炎上元アナウンサーがいうように、単価としては透析なんかの方が圧倒的にお金や手間がかかりますし、是非はともかく目立つ問題だとは思うんですが、チリも積もれば何とやらと言いますしね。
ぶつぶつぶつ。

最後に

最後はついつい日頃の愚痴みたいなのが出てしまってすいません。
インフルエンザの検査がすべからく不必要だというわけではなく、検査というのはその結果の解釈も含めて検査なので、ただ単純に検査すればいいものではないんだということをわかってもらえればいいのですが。
長々と難しい話を書いてしまって、ここまでおつきあいいただいた方は読んでいただいて本当にありがとうございました。

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