パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

その抗インフルエンザ薬、本当に必要ですか?

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どうも、書きためた記事を絶賛大放出中のあんきろさんです。

ちなみに、予想通りではありますが「騎士団長殺し」は怪獣に邪魔されてプロローグの途中でストップしています。

 

前回、インフルエンザの検査の必要性についての記事(そのインフルエンザ検査、本当に必要ですか?)を書きましたが、みんな大好きインフルエンザシリーズということで、今回は治療について書いてみます。

 

はじめに

さて、これを読んでいる皆さんはインフルエンザと診断されてタ○フル®とかリ○ンザ®とかイ○ビル®とかを処方されたことがある人が多いと思います。
お子さんに処方されたことがある方もきっと多いと思います。
おそらくインフルエンザの検査をして、「あー、インフルエンザですねー、お薬出しときますねー、内服と吸入がありますけどどっちがいいですかー?」とか言われて出されたと思います。
「インフルエンザの薬の効果はこんな感じで、使うメリットはこれこれで、デメリットはこれこれで、それをふまえて使いますか?」と言われたことがある人はあんまりいないんじゃないでしょうか。
まぁ、実際忙しい救急外来でそれをいちいち説明するのは至難の技なので、ちょっとここに書いてみようとおもいます。

抗インフルエンザ薬の種類

市場原理に晒されるものに毀誉褒貶はつきものですが、ここでは特定の商品を褒めたり陥れたりする意図はないので、お薬は基本的に一般名か、もしくは商品名を使う場合は伏字で書きます。(冒頭から全然伏せられてないじゃないか!と言う声が聞こえてきましたが気のせいですかね)

外来で小児科で処方される薬は基本的に次の3種類です。
・タミ○ル®(オセルタミビル)・・・内服
・リレ○ザ®(ザナミビル)・・・吸入
・イナ○ル®(ラニナミビル)・・・吸入

小児科的にはこのうち、タミ○ル®は異常行動との因果関係が完全に否定はできないと言うことで10代には処方できないことになっていますし、リレ○ザ®とイナ○ル®は吸入のお薬なので、幼児に使用するのはちょっと難しい薬です。
点滴のラ○アクタ®(ラニナビル)という薬もありますが、これを外来で使おうなんていうのは言語道断です。
ということでラピ○クタ®は置いといて、まずは薬の効果以外のそれぞれの薬のメリットとデメリットを見ていきましょう。

薬効以外のメリットとデメリット

タミフ○®

メリットは内服なので確実に服用できるということです。
吸入薬は、特に子どもの場合はしっかり吸入できたかというのがどうしても問題になってくるので、その点については内服の方が確実性が高いです。
あと、一応世界中で使われているので、データの蓄積量が多いのも一応メリットとなります。
デメリットは、上に書いた10代に使えないこと(まぁこれは医療者にとっての問題ですが)と、1日2回5日間飲み続けなければいけないので面倒ということです。

リレン○®

メリットは10代に使えることと一応世界中で使われているので、データの蓄積量が多いことです。
デメリットは吸入なので確実性が内服に劣ることですが、合計10回吸入することになるので、1回失敗したくらいでの影響は比較的小さいです。ただこの合計10回吸入はやはり面倒というのもデメリットになります。
あと、吸入ができない患者(喘息・肺炎)には使用できないということもデメリットです。

イナビ○®

メリットは何と言っても1回の吸入で全てが終わること。飲み忘れもなければドロップアウトもありません。
10代に使えるのもメリットですね。
デメリットとしては、吸入薬としてのデメリットは上と同様です。それに加えて吸入が1回勝負なので、吸入に失敗した場合は薬が体内に入らないことがあるということです。このことから幼児以下には使えません。
あと、日本でしか発売されていない薬なので、上記2薬剤に比べて圧倒的にデータの蓄積が少ないです。これもデメリットになります。

肝心の薬効は?

それでは肝心の薬の効果を見ていきましょう。
ちなみに、これらのインフルエンザの薬は細胞の中で増えたウイルスが外に出るために必要な酵素の邪魔をする薬なので、体の中でウイルスが増えきってから使っても意味がありません。
概ね症状が出始めて48時間以内に使用を開始する必要があります。
もちろん使い始めるのが早ければ早いほど効果が高く、遅くなるほど効果は低くなります。

○ミフル®

2014年にコクランという全世界で文献の評価などをして医療情報の発信をしている組織が発表したレビューでその効果が検証されています。
その結果をまとめると
・プラセボ(偽薬)に比べて全体では16.8時間症状緩和を早めた
・健康小児においては29時間症状緩和を早めた
・喘息の小児には効果がなかった
・重篤な合併症を予防する効果はなし
・入院を減少させる効果はなし
・嘔気・嘔吐の副作用が多い
・予防投与は効果あり
という感じです。
うん、微妙な感じですが、まぁ解釈は読んでいる人にひとまず任せます。次行ってみましょう。

○レンザ®

こちらも同様に2014年のコクランレビューでその効果の検証が行われています。
結果をまとめると
・プラセボ(偽薬)に比べて全体では14.4時間症状緩和を早めた
・小児には効果なし
・小児に予防効果なし
・重篤な合併症を予防する効果はなし
・入院を減少させる効果はなし
という感じです。
なんか小児科医として穏やかじゃない項目がありますが、見なかったことにしよう。ひとまず全部見てみましょう。

○ナビル®

上に書いたように、この薬は日本のみで販売されている薬で、海外では発売されていません。
なぜかというと・・・、欧米での臨床試験では有効性を示せなかったので開発がストップしてしまったからです。
具体的なデータとしましては、プラセボと○ナビル®を吸入した際の症状改善までの期間が、
プラセボ群:104.1時間
○ナビル®40mg群:102.3時間
○ナビル®80mg群:103.2時間
という感じです。もちろん有意差はありません。
一応○ナビル®の名誉のために言っておきますと、吸入3日後の時点でのウイルス排出量は○ナビル®投与群の方が低かったらしいですよ。まぁ肝心の熱の下がり方は変わらないんで意味ないですけど。
じゃあなんでそんな薬が日本では承認されて使われているの?という疑問が出てくるのが当然のところですが、日本での臨床試験(正確には日本、台湾、韓国、香港での共同試験ですが)では、○ミフル®と同じような効果が得られて、○ミフル®に対する非劣勢が証明されたからです。
つまり、承認されている○ミフル®と同様の効果があるから承認ということですね。
でも○ナビル®はプラセボと同じ効果なんだから、○ミフル®も○ラセボと一緒なんじゃ・・・。
おっと、これ以上書くと製薬会社のヒットマンに狙われそうなのでやめておきます。
まぁ、臨床試験の対象が人種も違いますし、一概に欧米の結果を日本で当てはめられるわけではないですからね。

結局、この3つの結果をまとめると、抗インフルエンザ薬の薬効としては、良くて半日から1日程度熱が早く下がるぐらいで、その効果はおそらく3剤とも大きな違いはないということになります。

結局インフルエンザの薬は使った方がいいの?

これは難しい質問です。
上に書いたように、なんとなく怪しそうな感じもしますが、3つとも一応解熱を早めてくれるという効果はありそうです。
ただ、早めるといっても半日強くらいですし、抗インフルエンザ薬は結構な割合で吐き気・嘔吐の副作用が出ます。
そもそも、ほとんどの場合インフルエンザは放っておけば治る病気です。
ごく一部に重症化してしまうケースはありますが、抗インフルエンザ薬には全体でみると重症化を防ぐ効果はどうやらなさそうです。
実際、アメリカの感染症対策の研究所であるCDCの提言では、健康な人に対して抗インフルエンザ薬による治療は不要と述べられています。
その提言で治療が必要とされているのは、入院中の患者、症状が強い患者、年齢や基礎疾患で重症化のリスクが高い患者です。
小児の場合は5歳未満(特に2歳未満)がリスクとされていますので、この年齢層には大手を振って抗インフルエンザ薬を処方できますが、それ以外となると、実際に抗インフルエンザ薬による治療が必要かと言われると答えに窮します。

まとめると

熱が早く下がるという効果はおそらくある(おそらくという言葉がつくのが辛いところですが)ので、抗インフルエンザ薬を使用する意味が全くないとは言えませんが、インフルエンザは放っておいてもそのうち治るという点や重症化を防ぐ効果はないという点、そして半日強という症状短縮時間を考えると、学童期以上の子ども、そして健康成人にはその費用対効果は高くはないというのが率直な印象です。
とはいえ、リゲ○ン®が「24時間戦えますか」と歌う世の中(今は歌っていないのか?)なので、子どもも含めて「薬を使っても熱がちょっとだけ早く下がるだけですけど、薬使いますか?」と言われたら「使います」としか言えないだろうなぁと思う次第でございます。

それにしても無駄に伏せ字を使いすぎて読みにくいことこの上なしですね。反省します。

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